台湾版アカデミー賞「第56回ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)」にて最優秀賞を受賞したスリラー映画『返校』が今、台湾や香港をはじめとするアジア圏の若者の間で、話題になっているのをご存知でしょうか。2019年9月20日より台湾にて公開され、観客動員数が公開24日間で100万人を突破。その後、香港などアジア諸国にて随時公開して大ヒットしています。本記事では、そんな映画『返校』の概要やあらすじ、そして実際に私がみた感想、気になる日本公開についてご紹介いたします!
映画『返校』概要
まずは、映画のあらすじ、キャストやスタッフなどの基本情報についてご紹介します。
あらすじ
1962年、国民党政府による戒厳令によって思想や言論の自由が奪われた白色テロ時代の台湾。舞台は山奥にある翠華高校。放課後、女子高生の方芮欣(ファン・ルイシン)が教室で眠りから目を覚ます。校内を見渡しても誰もおらず、不安になるルイシンだったが、校内を彷徨ううちに彼女を慕う後輩の男子学生・魏仲廷(ウェイ・ヂョンティン)と遭遇する。2人は出口を探し求めて歩きまわると、いつも通っているはずの高校が不気味で恐ろしい場所に変貌していることに気付く。そして2人は学校に隠された過去知り…。
原作
原作は、台湾のゲーム会社RedCandleGames(赤燭遊戲)が開発したホラーアドベンチャーゲーム。画面の中で、気になる点をクリックして調べていき、台湾の歴史を絡めた謎解きに挑みます。2017年にはSteamにて日本語対応。また、現在ではNintendo Switchでも配信されており、ダウンロードもできます。
キャスト
王淨(ジングル・ワン)(役名)
主演を務めたのは真っ直ぐな瞳が印象的な台湾の新人女優の王淨(ジングル・ワン)。劇中では60年代風のレトロなオカッパヘアーがとても可愛い新人女優さんです。本作では彼女の無垢な透明感のある演技が、どす黒い政治体制とのギャップを生んでとても印象深かったです。そして、彼女は女優であり作家でもある多才の持ち主。中学生の頃から小説を出版するほどの文学の才能もあり本作にて注目を浴びました。
インスタもやっているよう
作品情報
原題 | 返校 |
英題 | Detention |
製作国 | 台湾 |
ジャンル | ホラー |
上映時間 | 102分 |
監督 | 徐漢強(ジョン・シュー) |
キャスト | 王淨(ジングル・ワン)、曾敬驊(ピーター・ツェン)、傅孟柏(フー・モンボー)ほか |
外部サイト | オフィシャルFacebook |
映画『返校』見どころ
台湾で20年間語られなかった”白色テロ”を描く
本作の最大の見どころは、これまで台湾で20年間語られなかった”白色テロ”を描いた点といえるでしょう。そもそも、“白色テロ”って何?という方もいるかと思いますので簡潔にご紹介します。
「白色テロ時代」という語は広義には1947年の二・二八事件から1987年に戒厳令が解除されるまでの期間を指す[4]。台湾では二・二八事件以降、中国国民党(国民党)は国民に相互監視と密告を強制し、反政府勢力のあぶり出しと弾圧を徹底的に行った。白色テロの期間、蒋介石率いる国民党に対して実際に反抗するか若しくはそのおそれがあると認められた140,000名程度が投獄され、そのうち3,000名から4,000名が処刑されたと言われている[5][6]。大半の起訴は1950年から1952年の間に行われた。訴追された者のほとんどは中国共産党のスパイを意味する「匪諜(中国語版)」のレッテルを貼られ罰せられた。国民党支配に反抗したり共産主義に共鳴したりすることを恐れ、国民党は主に台湾の知識人や社会的エリートを収監した[5]。
白色テロ (台湾) – Wikipedia
つまり、”白色テロ”とは、政府の体制に反対する勢力の言論の自由や権利が弾圧され、理不尽な迫害を受けた事件です。お隣の国・台湾は観光の定番でもありとても平和な国のイメージがありますが、実は60年代はそんな厳しい弾圧があった国でした。そんな台湾政府の黒歴史をこの作品ではしっかりと取り上げています。
新人監督・新人キャストによる台湾映画のニューウェーブ
全員新人キャスト・監督で制作された点も本作の見どころと言えるでしょう。
監督・脚本を務めたジョン・スー(徐漢強)は、台湾版アカデミー賞の第56回ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)にて新人監督賞を受賞。台湾を代表する映画監督ホウ・シャオシェンや、エドワード・ヤンに続く名監督の登場に期待されています。
ジャンルは違いますが、日本でも全員無名の映画『カメラを止めるな!』が世界的に大ヒットしましたよね。日本では作品の良さが口コミを呼び、どんどん広まりヒットに繋がりました。本作も同様に、無名キャスト&監督による作品でしたが、“台湾映画のニューウェーブ”としてアジアで話題になっています。
ポリティカルなのにエンターテイメント映画として成り立っている
本作の見どころは、政治的な問題を浮き彫りにしつつ、きちんとホラー映画というエンターテインメント性を兼ね備えている点です。
政治的や社会性のある映画は沢山ありますが、大体がドキュメンタリー作品で、どうしても大衆性には欠けてしまいます。すると多くの人に見てもらう機会を失ってしまいますよね…。
一方で、本作はホラー映画としてしっかりエンターテインメント性があるので、友達や恋人と気軽に見に行くことができます。
このように社会性とエンターテインメント性を兼ね備えた映画こそ本当に素晴らしい映画だと個人的には思っています!
感想
元々はポスターを何回か見かけたことあるくらいで(よくありそうなホラー映画か…)と思っていたのですが、香港の友人から「すごくメッセージ性があって面白いから見てほしい!」とお勧めされて観に行ってきました。
ホラー映画というエンタメ性もありながら、言論の自由が抑圧された社会への批判というメッセージ性がきちんと練り込まれていてかなり深みのある映画でした。
こういった社会的な映画は、実は韓国映画にとても多いイメージがあります。『タクシー運転手』や『82年生まれ、キム・ジヨン』など、自由の抑圧やフェミニズムなど映画を通じて社会的なメッセージを訴えた作品がたくさんありますよね。台湾映画もどんどんそういった方向にシフトしているのかなと思いました。
そしてそんな本作が、台湾のアカデミー賞にて新人監督賞、脚色賞、視覚効果賞、美術デザイン賞、歌曲賞の5冠を制してもはや台湾映画のニューウェーブと言えるでしょう。
おすすめ度 3.8点 / 5点
- 台湾に興味がある方におすすめ!
- 台湾の戦後史を知ってるとさらに楽しめる!
- アジアの政治に興味がある方におすすめ!
60年代の台湾が舞台なので、当時の政治事情を知っていたり興味がある方なら勉強になること間違いなしの映画です。
ちなみに、私はあまり台湾史の知識がなく、本作を見て初めて”白色テロ”について知りました(汗)歴史を知らなくても新たな勉強になりますし、普通にホラー映画としても楽しめますよ!
海外からの評価
海外での反応はどうでしょうか?
- アメリカの有名映画サイト、IMDBでは、 7.2/ 10点
- 香港の映画レビューサイト、HongKongMovieでは4.2/5点
海外レビュー抜粋
- カメラワークが好き。カメラの技術面が本当に素晴らし買った。監督のショットとホラーの雰囲気作りが卓越していて観客を引き付けます。
- この映画は、自由の権利を拒否したとき、台湾がどのようなものであったかを教えてくれる映画です。
- ホラー映画と分類されますが、私の目を引くのは、俳優と女優の素晴らしいキャスティングです。台湾の歴史を理解していなくても、映画は観る価値があります。
- 最も重要なことは、この映画は民主主義の価値を示したことです。この映画はホラー映画に分類されていますが、非自然的なホラーではなく、人々によって簡単に忘れられた時代に対する台湾人の内なる恐怖についてです。
やはり、今作が取り上げている台湾の黒歴史をテーマにした点が評価されています。さらに香港では、政府に対するデモが活発になっている背景もあり、自由が弾圧される姿を描いた本作は香港の若者の中でかなり話題になりました。
気になる日本公開はいつ?
さて、気になる日本公開ですが、まだ未定です。
しかし一部の間では、日本の配給会社が既に本作の版権を購入したとの噂も流れており、今年末または来年あたりに日本公開されるのではないかと期待もされています。
個人的には、新宿武蔵野館あたりで上映されるのではないかと睨んでおります!
コメント